【お問い合わせ】 E-mail:nog-tax@grupo.jp |
こんにちは。大阪南船場の「お節介」税理士@野口たかしです。
残暑お見舞い申し上げます。
先日の台風、風も雨も凄かったです。
被災された方には、お見舞い申し上げます。
さて、私は、納税協会等で、インボイス制度や電子帳簿保存法のセミナー講師を務めています。
なので、日々最新情報を入手して、受講者の方にお伝えさせていただくよう心がけています。
今朝、ネットニュースを見ていると、
「電気代がインボイス制度導入で10月に値上がり…電力会社の負担が消費者にしわ寄せ」
という記事が出ていました。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/270876
今回は、この点を絡めて、インボイス制度の「歪み」について解説したいと思います。
現行(2023年9月30日まで)は、3万円未満の取引は領収書がなくても、帳簿に取引を記載するだけで、消費税の仕入税額控除が認められています。
国税庁HPを見ると、以下のように記載されています。
********************************************************************
課税仕入れ等に係る消費税額を控除するには、その事実を記載し、区分経理に対応した帳簿および事実を証する区分記載請求書等の両方を保存する必要があります。
(中略)
なお、取引の実態を踏まえ、次の特例的な取扱いがあります。
特例的な取扱い
1 税込みの支払額が30,000円未満の場合には、請求書等の保存を要せず、法定事項が記載された帳簿の保存のみでよいこととされています。
(以下、略)
********************************************************************
ここに書かれているように、経済取引や会計処理の実態を踏まえ、特例的な措置が講じられていということでしょう。
令和5年10月に導入されるインボイス制度では、上記制度が改悪!?され、限定した取引しか3万円未満の特例が適用されなくなりました。
国税庁HPのQ&Aには、次の取引が限定列挙されています。
********************************************************************
① 適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の公共交通機関による旅客の運送
② 適格簡易請求書の記載事項(取引年月日を除きます。)が記載されている入場券等が使用の際に回収される取引(①に該当するものを除きます。)
③ 古物営業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの古物の購入
④ 質屋を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの質物の取得
⑤ 宅地建物取引業を営む者の適格請求書発行事業者でない者からの建物の購入
⑥ 適格請求書発行事業者でない者からの再生資源及び再生部品の購入
⑦ 適格請求書の交付義務が免除される3万円未満の自動販売機及び自動サービス機からの商品の購入等
⑧ 適格請求書の交付義務が免除される郵便切手類のみを対価とする郵便・貨物サービス(郵便ポストに差し出されたものに限ります。)
⑨ 従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当)
********************************************************************
インボイスは、「税の転嫁を適正に伝える手段」のために導入されたという背景があるので、原則「すべての取引にインボイスが必要」という考えになるのでしょう。
でも、先述したように、取引の実態を考えると、非常に煩雑になります。
さらに、インボイスが無ければ仕入税額控除ができなくなるため、これまで免税事業者であった者も、インボイスを発行するためには課税事業者になる必要があり、例えば、次のような事業者に影響が出ると言われています。
イ 建設工事労務者(一人親方など)
ロ 生命保険外交員
ハ フリーランス
二 個人タクシー
ホ 飲食店(接待で利用する居酒屋等)
へ 駐車場経営者(タイムズ等コインパーキング)
日本税理士会連合会は、税制改正要望として、現行の「3万円未満の特例」を継続するよう要望を出していました。
で、結果(令和5年度税制改正)は、
インボイス制度開始後6年間、次の事業者に限って、1万円未満の課税仕入れについて、帳簿のみで仕入税額控除が可能となる特例です。
(対象となる事業者)
・ 基準期間における課税売上高が1億円以下
・ 特定期間における課税売上高が5,000万円以下である事業者
すべての事業者でなく、基本、売上高が1億円以下の小規模事業者が対象。しかも、6年間の期間限定という措置となってしまいました。
これって、現行の「取引の実態を踏まえた」思想を無くしてしまった、ってことでしょうか。
事業規模が大きければ取引も多く、事務が煩雑になるわけで、何故こんな、みみっちい改正をしたのか理由がわかりません。。。
さて、冒頭の記事の話です。
最近は、ECO住宅ということで、太陽光パネルを設置した家が増えてきました。
太陽光発電により、自宅で使用する電気を賄える。また、余った電気は、電力会社が買い取ってくれる。
その買い取りは、電力会社の仕入税額控除の対象となるわけです。
電力会社は、仕入税額控除するためにはインボイスが必要。
一般家庭は、課税事業者ではない(免税事業者)ため、インボイスを発行できない。
そのため、電力会社は、仕入税額控除ができないため、その損を消費者に転嫁。
結果、インボイス制度導入後は、電気代が上がってしまう。
というわけなんです。。。
一般家庭の売電収入ですが、自宅の電気に使用した後の「余り」ですから、1か月の売電額は、1万円も行かないのではないでしょうか⁉
とすると、「1万円未満の特例」が適用できる!と一瞬思ったのですが、その適用が可能なのは、1億円以下の事業者。しかも、6年間限定。
電力会社は、当然1億円を超える大企業ですから、この特例は使えません。
では、太陽光発電している一般家庭に、課税事業者になってもらってインボイスを発行してもらえばよい? それも「酷」というものです。
インボイス制度は、消費税の理想の姿であるのはわかりますが、やはり、現行の「取引の実態を踏まえた」措置が必要ではないでしょうか。
1万円を3万円に引き上げろとは言いませんが、
・ 対象となる事業者の制限を撤廃して、全事業者とする
・ 6年間の期間限定ではなく、恒久的に特例措置を認める
と改正すれば、今回の電気代の上乗せ問題も解決されるのではないでしょうか。
今回は、ネット記事を読んで、緊急上程させていただきました。
記事を読んで、「なるほどなぁー」と思った次第。
電気代だけでなく、ほかにも同じような転嫁問題があるかもしれません。
何度も言うように、取引の実態を踏まえた「制度」にしないと、経済自体が回っていかなくなる、会計処理が煩雑になり効率化が削がれていく。
⇒ 結果、日本の経済全体を弱体化させてしまうことに。。
ぜひ、政府(財務省)には、今回の制度の「歪み」について、再検討していただきたいものです。